読めそうで読めない漢字 / 第9回
「弁える」は「べんえる」?「立場を弁える」の読み方と意味
「立場を弁える」の「弁える」は「わきまえる」。物事の違いや道理を理解し、その場に合った判断をする意味です。 「べんえる」ではありません。
「弁論」の「弁」から、話すことだけを連想すると読みづらい字ですが、「弁別」には違いを見分ける意味があります。「弁える」も、区別し、心得るという意味から捉えられます。
「立場をわきまえる」は自分に使うか相手に使うか
主催者としての立場をわきまえ、公平に発言の機会を設ける。
自分の役割を理解し、それに応じて行動するという文です。「黙って従う」という意味だけに狭める必要はありません。責任のある立場なら、必要な意見を述べることも役割に含まれます。
一方、「自分の立場をわきまえなさい」と相手に言えば、相手の判断や態度をたしなめる強い言い方になります。単に声の大きさを注意したい場面なら、「隣で説明中なので、少し声を落としていただけますか」と具体的に頼む方が意図が明確です。
「わきまえる」が失礼な語なのではなく、何を当然とするか、誰が誰に行動を求めるかによって、文の強さが変わります。
「分別がある」とのつながり
良し悪しを判断する力を「分別(ふんべつ)」と言います。「分別のある人」は、物事の道理をわきまえた人です。ごみを分ける「分別(ぶんべつ)」とは、ここでは読みが違います。
「弁える」は平仮名で「わきまえる」と書いても自然です。文章に漢字を使うかどうかより、「何をわきまえてほしいのか」が重要になる言葉でもあります。「常識をわきまえてください」だけでは、相手が何を直せばよいのか分からないことがあります。時間を守ってほしいのか、他人の話を遮らないでほしいのか。依頼なら、必要な行動を言葉にできます。
「場をわきまえる」は具体的にどういうこと?
質問の時間を設けていると知り、説明の途中では口を挟まずに待った。
進行役として時間をわきまえ、残り五分で話をまとめるよう依頼した。
こうした場面では、状況や自分の役割を理解して行動しています。いつも遠慮して発言を減らすことが「わきまえる」わけではありません。説明が聞こえない人がいるなら、そのことを伝えるのも、場全体を考えた判断です。
「身の程をわきまえる」という形になると、自分の立場や力量を心得る意味が前に出ます。他人に向ければ、相手を低く位置付ける響きが強くなりやすいため、単なる助言のつもりで使うには注意が要ります。「今の経験では難しい工程もあるので、最初は二人で担当してみませんか」と、理由と提案を伝える方法もあります。
「弁えない人」と書く前に確かめたいこと
「礼儀をわきまえない人だった」という感想は使えますが、読者には実際の行動が見えません。約束の時間を守らなかったのか、断りなく撮影したのかでは、困ったことも対応も違います。
たとえば案内文なら、「節度をわきまえてご利用ください」より「他の方の声が聞こえるよう、館内での通話はお控えください」のほうが、守ってほしい行動を特定できます。常識が共有されていると決めつけず、理由も短く添えると伝わりやすくなります。
自分について「立場をわきまえているつもりです」と書く場合も、「選考に関わるため、個別の評価についてはお答えできません」とすれば、判断の内容が分かります。「わきまえる」は道理を理解する語ですが、何を理解し、どう動くのかまで書いて初めて、相手とその判断を共有できます。