正しい敬語 / 第45回
「僭越ながら」と「差し出がましいようですが」、出しゃばらずに言いたいとき
頼まれていない提案をしたいとき、何も添えずに言うのはためらわれます。「僭越ながら」と「差し出がましいようですが」は、そんな出過ぎた振る舞いへの遠慮を表す言葉です。
似ていますが、よく合う場面には違いがあります。
「僭越ながら」は役割や立場を意識する前置き
「僭越」は「せんえつ」と読み、自分の立場を越えて出過ぎたことをするという意味です。改まった席で代表として挨拶するときなどに使われます。
「ご指名をいただきましたので、僭越ながら一言ご挨拶申し上げます。」
本当に資格がないと告白しているのではなく、皆を代表して話すことへの控えめな姿勢を示しています。
ただ、担当者として当然行う説明にまで「僭越ながら」を付ける必要はありません。「担当の佐藤より、手順をご説明いたします」の方が、役割が素直に伝わります。
「差し出がましいようですが」は、求められていない提案に
相手の領域に踏み込む助言には、「差し出がましいようですが」が合うことがあります。
「差し出がましいようですが、受付の案内を入口にも置いてはいかがでしょうか。」
こちらは身分や肩書というより、相手に頼まれていないことを言う遠慮です。普段の会話なら「一つ提案してもよいでしょうか」と、まず相手の意向を確かめる言い方もできます。
前置きが丁寧でも、その後の発言への配慮が不要になるわけではありません。「差し出がましいようですが、そのやり方は全部間違っています」では、相手の事情を知らずに断定する強さが残ります。
提案なら、理由と選べる余地を添えたいところです。「入口で迷っている方がいたので、案内を一枚増やすのはいかがでしょうか」と言えば、前置きを重ねなくても提案の意図が分かります。言葉の控えめさと、内容の押し付けなさをそろえると自然です。
頼まれて挨拶するときも使える?
僭越ながら、参加者を代表してお礼を申し上げます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
代表として話すことへの控えめな姿勢を表す例です。指名されたのだから立場を越えていない、と文字どおりに考えて、必ず誤りとする必要はありません。改まった挨拶の前置きとして使われます。
一方、集まりの雰囲気によっては、「参加者を代表して、一言お礼を申し上げます」と前置きを省いても自然です。「僭越ながら、差し出がましく恐縮ではございますが」と重ねると、本題に入る前の遠慮が長くなります。
挨拶する役目を引き受けたうえで「自分には資格がありません」と強く否定し続けるより、一度控えめに述べて、お祝いなり感謝なりを伝えたいところです。
反対意見には理由を、誤りの訂正には事実を
一点確認してもよろしいでしょうか。資料の開催日は土曜となっていますが、金曜の予定と伺っております。
日付の食い違いを確認するなら、「僭越ながら」を使わず、このように尋ねられます。訂正の必要がある情報を、相手の立場に遠慮して曖昧にすることもありません。
提案の場合は、「もし入口の混雑が続くようでしたら、受付を一か所増やす方法はいかがでしょうか」と条件を示せます。こちらが知らない事情があるかもしれないという余地も残ります。
「差し出がましいことを言いました」と後から謝る場合は、「ご事情を知らずに提案してしまい、失礼しました」と、踏み込みすぎた点を具体的に言えます。敬語の形が整っているかに加え、相手が求めている助言かどうかにも目を向けると、前置きに頼りすぎずに済みます。