正しい敬語 / 第58回
「拝受いたしました」は二重敬語?資料を受け取ったときの正しい返事
「資料を拝受いたしました」は、受け取ったことを丁重に伝える表現です。「拝受」も「いたす」も謙譲表現だから誤り、とはなりません。二つの敬語は、同じ働きを単に重ねているわけではないからです。
「拝受」と「いたす」は敬意の向け方が違う
「拝受」は「はいじゅ」と読み、受け取ることをへりくだって言う言葉です。受け取り元の相手を立てる、謙譲語Ⅰに当たります。「いたす」は、自分側の行為を話の相手に丁重に述べる謙譲語Ⅱです。
文化審議会「敬語の指針」は、同じ種類の敬語を一つの語で重ねる二重敬語と、働きの異なる敬語の組み合わせを区別しています。この整理に沿えば、「拝受いたしました」を敬語が二つあるという理由だけで誤りにはできません。
とはいえ、毎回最も改まった形を選ぶ必要もありません。「資料を拝受しました」「資料を受け取りました。ありがとうございます」でも伝えられます。「受領しました」は、受け取った事実を簡潔に知らせる言い方です。
「拝受しました」は、内容を確認したという意味ではない
注意したいのは、敬語の長さより、どこまで済んだかです。「拝受しました」だけなら、相手には資料が届いたことが伝わります。中身を確認し、提案を受け入れたことまで意味するわけではありません。
「資料を拝受しました。内容を確認し、明日中にご連絡いたします。」
「資料を拝受し、内容も確認いたしました。ご提示の日程でお願いいたします。」
前者は受領、後者は確認と返答まで済んでいます。受け取ったこと、確認したこと、了承したことを分けて書くと、相手が次の返事を待つべきかも分かります。丁寧な一語に、まだしていない約束まで背負わせないことが大切です。
相手に受け取ってもらうときは何と言う?
案内状をお送りしました。お手元に届きましたら、ご確認いただけますでしょうか。
受け取るのが相手の場合は、「ご拝受ください」とはせず、「お受け取りください」「ご確認ください」などと伝えます。「拝受」は自分側がへりくだる表現なので、敬っているつもりで「ご」を足しても、動作の主体が合いません。
「拝受されましたか」と相手に尋ねるより、「資料はお手元に届いておりますでしょうか」と聞けば、到着の有無を確認できます。中身についても確認してほしいのかは、別に示したほうがよいでしょう。
書面を受け取ったことだけを報告するなら、「本日、案内状を拝受しました。お送りいただき、ありがとうございます」と簡潔に返せます。
添付が開けない、足りない場合の返事
メールは受け取りましたが、添付ファイルを開くことができませんでした。恐れ入りますが、別の形式でお送りいただけますか。
メールが届いていても資料を読めない場合は、その違いを明確にします。「拝受いたしました」だけを返すと、相手は必要な物が問題なく届いたと考えるかもしれません。
枚数が足りない場合は、「案内資料3枚のうち、1枚目と2枚目を確認しました。3枚目もお送りいただけますでしょうか」と、届いた範囲を示せます。相手の手違いとは限らないので、最初から「添付をお忘れです」と原因を決めつける必要はありません。
受け取った後に承諾が必要なら、その返事の見込みも添えます。「本日拝受しました。参加の可否は、日程を確認して明日お知らせします」と書けば、受領確認の一通が正式な承諾と混同されにくくなります。