間違えやすい日本語 / 第92回
「必ずしも悪くない」は褒めている?否定の範囲で変わる意味
「値段が高い物は必ずしもよいとは限らない」。この文は、高い物がすべて悪いと言っているわけではありません。「必ずしも」は否定と組み合わさり、「いつでもそうとは言えない」「例外がある」という意味を表します。 どの部分を否定しているかによって、受け取る結論が変わります。
「必ずしも悪くない」は大絶賛ではない
「今回の結果は必ずしも悪くない」と言われたら、悪いと決めつける必要はないという評価です。よい点もある、想定ほど悪くない、見る観点によって違うなど、理由はいくつか考えられます。
「とてもよい」と同じ強さで褒めているわけではありません。「悪くない」の前に「必ずしも」を付けることで、全体を悪いとする評価に待ったをかけています。
相手をしっかり褒めたいなら、「読みやすくなりました。特に最初の説明が分かりやすいです」とよい点を直接伝えられます。「必ずしも悪くない」だけを返すと、受け手には何を直すべきか、どこが評価されたかが残りません。
全体を否定する文との違い
「全員が参加するわけではない」と「全員が参加しない」では意味が違います。前者は参加しない人がいること、後者は一人も参加しないとも読める文です。「必ずしも全員が参加するとは限らない」なら、全員参加がいつでも成り立つわけではないと伝えています。
「経験が長ければ必ずしも上達しているとは限らない」は、長い経験があっても上達していない例があるという意味です。「経験が長い人は上達していない」と言い換えると、否定する範囲を広げすぎます。
説明を短くしたいなら「経験の長さだけでは、上達の程度は判断できません」と書けます。単に語を削るのでなく、否定したい関係を保つことが大切です。
肯定文に付けると意味が取りにくくなる
「この方法は必ずしも成功します」は、普通の現代語の使い方として不自然です。確実に成功するという意味なら「必ず成功します」、成功する場合もあるという意味なら「成功することがあります」と書きます。
「必ずしも失敗する」も、意図が取りにくい文です。「いつも失敗するわけではない」なのか、「きっと失敗する」なのかで正反対になります。後ろの否定を省いたつもりなら、読み手に補わせず「必ずしも失敗するとは限りません」と最後まで書きます。
会話では「必ずしも、ね」と言い差すこともありますが、前の発言を受けて意味が分かる場合に限られます。単独で読まれる説明文へ、そのまま持ち込むと判断が難しくなります。
「必要ではない」と「不要」は同じではない
「予約は必ずしも必要ではありません」と案内されると、予約なしでも使える場合はあるが、予約を勧める条件もありそうだと読めます。いつでも予約不要という意味とは限りません。
たとえば「平日は予約なしで利用できます。土日は予約が必要です」なら、条件がはっきりします。人数によるなら「四名までは予約不要です」と書けます。「必ずしも」を添えるだけで例外の中身まで伝わるわけではありません。
依頼で「すぐに返事をいただく必要は必ずしもありません」と書くのも、急ぐのかどうか分かりにくい言い方です。「金曜日までにお返事ください」と期限を示せば、相手は自分の予定と合わせて判断できます。
慎重に言いたいからと「必ずしも」を加えていくと、文章全体の結論が見えなくなることがあります。例外のある判断には役立つ語ですが、条件を知っているならその条件を具体的に書く方が、読み手の迷いは少なくなります。