本文へ移動
LINTO日本語の校正と推敲

読めそうで読めない漢字 / 第41回

「示唆」は「しさ」?言い切らずに伝える言葉の読み方と使い方

「示唆」は「しさ」と読みます。あることを直接言い切らず、それとなく分かるように伝えることです。「値上げを示唆した」と書いてあっても、値上げが決まったとまでは読み取れません。言葉にしていない部分を、発言や状況から受け取るときに使います。

「示唆した」と「発表した」では確かさが違う

「示唆」は、結論を明言することではなく、それを考える手がかりを示すことです。 たとえば、店主が「今の価格を維持するのは難しい」と話したとします。これを「値上げを示唆した」と伝えることはできますが、「来月から値上げすると発表した」と書けば、元の発言にない時期と決定を加えてしまいます。

「監督は来季も指揮を執る可能性を示唆した」という文も、続投の正式決定とは別です。「続投を明言した」「続投を発表した」との違いは、本人がどこまで言葉にしたかにあります。ニュースの見出しでは、この一語を見落とすと、まだ決まっていないことを決定事項と取り違えます。

一方、「調査結果は別の原因の存在を示唆している」のように、人の発言以外にも使えます。この場合、データが意図をもってほのめかすわけではありません。結果を説明するための有力な考え方が見えてくる、ということです。示唆があるだけで、その原因が証明されたとは限りません。

「示唆に富む」は曖昧な話への褒め言葉?

「示唆に富む」は、考えを進めるヒントが多いという評価です。「展示の見せ方について、示唆に富む話を聞いた」なら、話を聞いたことで配置や説明の方法を考え直せた、といった内容が想定されます。話し手がわざと遠回しに話したという意味ではありません。

「この失敗談は、新しく店を始める人に示唆を与える」も自然です。失敗の記録そのものが、場所選びや資金配分を考える手がかりになります。「示唆に富む本」と書くときは、「常連客だけを想定した品ぞろえの危うさに気づかせる」のように、何を考えさせられるのかを添えると、漠然とした賛辞で終わりません。

人から助言をもらったときには「示唆をいただいた」とも言えます。ただ、普段の礼状なら「展示の見せ方について、新しい視点をいただきました」と書くと、感謝する内容が相手にも伝わります。難しい言葉を使うこと自体が、丁寧さを増すわけではありません。

「明示」「暗示」とどう使い分ける?

「明示」は、はっきりと示すことです。「締め切りを明示する」なら、日付や時刻を明確に書きます。「締め切りを示唆する」では、いつまでなのか相手に推測させることになり、必要な案内としては不十分です。

「暗示」と「示唆」は、それとなく知らせる点で重なります。ただし「暗示」には、物語の後の展開を予感させたり、心理に働きかけたりする使い方もあります。「冒頭の割れた時計が結末を暗示している」では、時計が手がかりになっています。「示唆は知的で暗示は感情的」ときれいに分ける必要はありませんが、文芸の仕掛けなら「暗示」がなじみます。

「示」と「唆」から意味を確かめる

「示」は示す、「唆」はそそのかす、促すことに関わる字です。ただし、熟語の「示唆」に人を悪事へ誘う意味が必ずあるわけではありません。漢字一字の印象だけで、否定的な言葉だと判断しないようにしたいところです。

読みは通常「しさ」で覚えれば足ります。辞書には「じさ」という読みも載りますが、記事や説明を音読するなら「しさ」が分かりやすい選択です。「何を示唆しているのか」を自分の言葉で言えると、読みだけでなく文の意味も確かめられます。「可能性を示唆する」という表現を、確定した事実の代わりに使わないことが大切です。

自分の文章を校正する登録なしで200文字まで無料で使えます。
すべてのコラムを見る