読めそうで読めない漢字 / 第34回
「美人局」は「びじんきょく」じゃない?漢字と読みが結び付かない理由
「美人局」を一字ずつ音読みすると「びじんきょく」になりそうですが、日本語の語としては「つつもたせ」と読みます。 美人が集まる部署や施設を指す言葉ではありません。
「美人局」は人を褒める言葉ではない
色恋の関係を口実に、示し合わせた者たちが相手から金銭などをゆすり取る行為を指します。字に「美人」があっても、容姿を褒める意味で人に使ってはいけません。
「ハニートラップ」と似た場面で使われることがありますが、両者がいつでも同じとは限りません。色仕掛けによって情報を得るなど、別の目的を含む表現まで、すべて「美人局」に置き換えると意味がずれます。
ニュースなどで「美人局の疑い」とあれば、単なる交際上の行き違いではなく、共謀や金銭の要求を含む疑いが語られていると読み取れます。ただし、疑いの段階と事実の確定は、文章上も区別する必要があります。
「筒持たせ」説と漢字の由来
『デジタル大辞泉』などの解説では、読みは博徒の語「筒持たせ」から来たとする説が紹介されています。一方、「美人局」という表記には中国の文献との関係が示されています。
ここは、読みと漢字の由来を分けるのが大切です。「美」を「つつ」、「人」を「もた」と読む規則があるから、この読みになったわけではありません。語全体に漢字を当てた表記です。
また、語源の説明には「という」「か」といった留保があります。同ページの『日本大百科全書』も語源を不詳としています。分かりやすい逸話が紹介されていても、一つの出来事から確実に生まれたとまでは言い切れません。
漢字から読みが推測できないのには理由があります。熟語を一字ずつ読むものとしてではなく、「つつもたせ」という語に対応する三文字として覚えると、無理な音の分解をせずに読めます。
字面から受ける印象と意味が大きく違う
「美人」という二文字に引かれて、人の容姿を褒めるつもりで「美人局」と呼ぶと、まったく別の意味になります。「局」も、ここでは放送局や役所の部署を指していません。三文字を一つの語として読み、意味を覚える必要があります。
小説では、二人が示し合わせて美人局を仕掛けたことが、後から明かされる。
この例は、物語の中で共謀した行為を説明しています。「美人局に見える人」のように、見た目だけから人へ貼る呼び名ではありません。語の意味を知ることと、現実の誰かに当てはめることは分けて考えます。
「色仕掛け」だけでは同じ意味にならない
恋愛感情を利用する話でも、金銭などをゆすり取る行為を指しているのか、情報を聞き出すための誘いを指しているのかで、使う言葉は変わります。「美人局」「色仕掛け」「ハニートラップ」を、刺激の強い言い換えとして入れ替えると、出来事の説明を変えてしまうことがあります。
たとえば作品紹介で「相手に近づいて秘密を聞き出す場面」と書けば、目的が明確です。記事を読む側も、「美人局のようだ」という誰かの感想と、示し合わせた行為が確認されたという説明を区別できます。「疑い」「主張」「確認された」といった周囲の語を落として読むと、事実の確かさまで違ってしまいます。
語源を紹介する場合にも同じ慎重さが必要です。「筒持たせ」という読みの説明と、中国由来の表記の説明は、別々の問いへの答えです。面白い一つの話にまとめるために、確かめられていないつながりまで作らないほうが正確です。
「美人局」は難読であると同時に、意味を知らずに使うと相手への強い非難になりうる語です。読みだけを面白がるクイズから一歩進め、何を指している言葉かまで知っておきたいところです。