読めそうで読めない漢字 / 第47回
「払拭」は「ふっしょく」。不安も汚れのように拭える?
「払拭」は「ふっしょく」と読みます。「不安を払拭する」なら、不安をすっかり取り去るという意味です。「拭」は「拭く」「拭う」の字。汚れをぬぐう動きが、目に見えない不安や疑いを取り除く表現にも使われています。
「払う」と「拭う」を合わせた言葉
「払」は払いのけること、「拭」は拭き取ることです。二文字を合わせると、まとわりついたものを払ってぬぐい去る意味になります。「払拭」の「拭」は「しょく」と読み、「ふっしき」という別の読みも辞書に載っています。一般的な説明や音読では「ふっしょく」が分かりやすい読みです。
現代の文章では「懸念の払拭」「古い印象を払拭する」など、心の中に残るものを対象にした用例がなじみ深いでしょう。実物の汚れを取る動作にも通じますが、食卓を拭いたことを普段の会話で「食卓の汚れを払拭した」と言うと、ずいぶん改まった響きになります。
「ふく」「ぬぐう」という身近な動作を思い浮かべると、字形だけでは難しい読みも意味と結びつけて覚えられます。
不安を「軽くする」より強い表現
「払拭」は、望ましくない気持ちや印象を、すっかり取り除くことを表します。 「説明を聞いて不安が少し減った」という段階を「不安を払拭できた」とすると、実際より強く言ったことになります。
「夜道の明るさを確かめ、帰宅時の不安を払拭した」なら、確かめた結果、気がかりがなくなったという書き方です。「説明を聞いても、使い続けられるかという不安は払拭できなかった」なら、解決されずに残る気持ちを伝えています。
少し改善した程度なら「不安が和らいだ」「懸念が小さくなった」が合います。「軽減」は程度を減らすこと、「解消」は問題や不安などをなくすことに広く使えます。払拭を選ぶと、しつこく残る印象をぬぐい去る感じが伝わりやすくなります。
「不信」「疑念」「印象」に使う例
「作業の過程を公開し、手抜きではないかという疑念の払拭を図った」という文では、疑いを晴らそうとした行動を述べています。「図った」なので、全員の疑いが実際になくなったことまでは断定していません。
「新しい展示は、古い資料館という印象を払拭するものだった」なら、見た人の持っていたイメージを変えるほどの内容だったという評価です。古い建物を壊した、という物理的な変更を意味するわけではありません。
「前回の失敗を払拭したい」と書く場合は、少し考えたいところです。起きた失敗そのものを消せるわけではありません。「前回の失敗で生じた不安を払拭したい」「失敗を挽回したい」なら、何を変えたいかが明確になります。払拭する対象が事実なのか、それに伴う印象なのかを区別すると、誠実な説明になります。
「不安は払拭された」と誰が判断する?
ある説明会のあとに、主催者が「参加者の不安は払拭されました」と発表したとします。実際には質問が残っている人がいれば、本人の気持ちを決めつけた表現になります。不安を持つ側と、説明する側は同じではありません。
確かめられた範囲なら「参加者から、手順が分かって安心したという声が寄せられました」と書けます。対応の目的なら「不安の払拭に向け、残った質問にも回答します」とできます。完了したことと、目指していることを区別するだけで、強すぎる言い切りを避けられます。
「悪い評判を払拭する」という文でも、評判を消すことだけを目的にするのか、原因を改善した結果として評価を変えるのかで受け取られ方が変わります。「検査の方法を改め、その結果を公開する」のような具体的な行動と組み合わせれば、単なる印象操作の話にはなりません。不安も汚れのように一度で拭える、と約束するための言葉ではないのです。